First inpression
―― 第一印象? ・・・・申し訳ないのですが、あまりよく覚えていないんです。 その時、私はセーブルでの山賊騒ぎが兄が仕組んだものだったという事を知った後だったので、ただ王子殿下に申し訳なくて・・・・。 でも確か王子殿下に紹介して頂いたように記憶しておりますわ。 『これから仲間になるから、よろしくね。』と。 私は事の顛末を皆様から聞いておりましたので、新しい仲間の方がいらっしゃることも知っていました。 その方が、王子殿下そっくりで偽物を演じ、乱稜山でリオンさんに一喝されたというお話も。 だから、少し驚きました。 だって王子殿下とカイル様に引っ張られるようにしてやって来たのは、ふてくされた顔をしたあんまりにも普通の男の子だったんですもの。 もっと狡猾な方を想像していましたから。 私を見て興味なさそうに顔を逸らしたのも、特に他意があるわけでもなく本当に興味がなかっただけだったみたいですし。 なんとなくそれが可笑しくて少し笑ってしまったら、確か彼は私を睨み付けて言ったんです。 『何が可笑しいんだよ。』 ですから私、すぐに頭を下げたと思います。 そうしたら、彼はビックリしたような顔をして私を見ました。 ・・・・ああ、そう。初めて彼が私を見たのは、きっとあの時ですね。 王子殿下より少し色の濃い褐色の瞳が真っ直ぐ私を見ていましたから。 その時、確かほっとしました。 人の瞳を真っ直ぐに見られるのなら、怖い人ではないと私は思っていますから。 けれどすぐに逸らされたんだと思います。 そのくらいの記憶でしょうか。 ・・・・え?その時はどうも思わなかったのか、ですか? ええ、特には。 想像していたよりは王子殿下に似ていない、と思ったくらいだったと思います。 ―― その時、私は・・・・かなわぬ想いを抱いておりましたから。 |
―― 第一印象? さあな。覚えてねえぜ。 ・・・・思い出せっつわれてもよぉ。 あー、確かセーブルからライラ城に連れてこられた時だったと思うぜ。 王子さんとカイルが城に着くなり引っ張っていきやがったんだ。 これから世話になるとかなんとかいいながらよ。 そしたらカイルが後ろから『バロウズ家のお嬢さんだよ』とか言ったんだっけ。 バロウズっつや、俺たちを使ってたどうしようもねえ野郎だと思ってたから、王子さんが声をかけた女が振り返った時はちょっと驚いた。 だってよ、普通の女の子だったぜ。 兄貴がバカみてえだったのとは反対に頭良さそうな女。 きれえなかっこした人形みてえな女。 けどそれだけしか思わなかったし、興味もなかった。 早く終わんねえかな、と思って顔逸らしたら、あいつ、笑いやがったんだ。 やっぱり貴族なんざいけすかねえと思って、睨み付けやった。 あいつの兄貴ならびびって逃げ腰になった声で凄んでみせて。 なのに、あいつは 『お気に障ったら申し訳ありません。』 なんて言って、簡単に頭を下げたんだ。 当たり前に、貴族の、それもファレナ女王国屈指の貴族の娘がごろつきの俺に頭を下げた。 それに驚いてあいつをみたら目があった。 リオンとは違うけど、真っ直ぐに人を見る眼だった。 自分の前を見据えてる強い目だと思った。 ・・・・けど、まあ、それだけかな。 別に後は興味なくなって逸らしちまったし。 ・・・・どうとも思わなかったかって? 思うわけねえだろ。 ―― そん時、俺は・・・・ |
―― それはまだ、互いの視線が別の人を見ていた時の話 ―― その人を通り越した向こうの視線に気が付く、ほんの少しまえの話・・・・ |